最終章 生きる途中・夢
 
これは表紙のない夢物語。
 
だから始まりも終わりもないの。
 
そこにあるのは、ただ、今という瞬間(とき)…だけ。
 
くすんだ風がそっと夢の表紙を優しく吹き飛ばしたから。
 
そんな風が私の匂いを感じたとき…
 
君の残り香だけは残しておいたよ… 風がそっと教えた。
 
離れれば、忘れられるのかしら。
 
いくつもの眼差しが素肌をかすめる、今、私は生きている。
 
明日へは行きたくない、だから… この匂い… 拭かないで。
夢の続きを追いかけたいから…
 
第五章 立ち止まる時間 ← BACK
 
自分の過去を呼び出せば、さほど遠くないはずなのに懐かしい昔のように思う。
ぬくもりがこんなに恋しいなんて…
優しさがこんなにほろ苦いなんて… 
ひと時だけの戯れの時間(とき)… と呼ぶならさみしい…
 
ほんの少しの時間(とき)は、夢から生まれて、終わるのもまた夢。 
夢の中の小説には涙の用意はいるかしら。 
振り向く時は来るかしら。
 
燃え殻になって形を変えても、夢の抜け殻になっても… どちらも生きる途中。
そう、昨日も明日も生きる途中。
今は疲れても、心かよわせ胸の中を忘れなければいい。
だって、たった一度の想い出だけにするには辛すぎるから…